インタビュー

インディーゲームでも8人同時対戦が簡単に―アロービットゲームスタジオ『モグモグガンガン』を支えるモノビットエンジン

2018年12月14日発売予定、8人マルチプレイ対応のiOS/Android向け横スクロールレースゲーム『モグモグガンガン』。

アロービットゲームスタジオ株式会社が手掛ける同作品は20年以上のコンシューマ歴を持つ2人の開発者がインディーズとして開発を進めており、東京ゲームショウやBitSummitなどのゲームイベントを通して大きな注目を集めてきました。

この度編集部は同作品を事例として、通常の開発ではボトルネックになりがちなネットワーク周りを「モノビットエンジン」でどう補完したのか伺うべく、アロービットゲームスタジオ代表 奥谷順氏とプログラマを務める伊藤成一氏にインタビューを実施。本稿ではゲーム自体のコンセプトも併せて訊いたその内容をお届けしていきます。

――まずは『モグモグガンガン』を手掛けるお二人の自己紹介をお願いいたします。

 

奥谷:株式会社アロービットゲームスタジオ代表の奥谷と申します。ゲーム業界歴は25年ほどになりまして、スーパーファミコン後期から初代PlayStationの頃に企画職としてゲーム制作をスタートさせました。現在はアロービットゲームスタジオを設立しゲーム開発を行っています。

 

伊藤:プログラマの伊藤と申します。私自身はゲーム業界歴は20年ほどになりますが、現在はフリーランスとして“流れの”プログラマという立ち位置です。コンシューマ中心で、過去の話だとドリームキャスト版『シーマン(株式会社ビバリウム/1999)』が最初の作品です。アロービットゲームスタジオに籍を置いたのは1年ほど前になります。

 

――アロービットゲームスタジオには現在何名のクリエイターが所属しているのでしょうか。

谷:正社員は私1人です。伊藤さんはEA時代の知り合いづてに「良いプログラマがいる」ということで紹介をいただき、お声掛けしました。現在は私とプログラマ2名という編成で開発にあたっています。基本的には全員が在宅で、やり取りもオンライン上で行っています。

――現在開発中の『モグモグガンガン』ですが、もしよろしければプレイさせていただくことは可能ですか?

奥谷:はい、もちろんです。ぜひマルチプレイで遊んでみてください。

 

奥谷:『モグモグガンガン』は地中を掘り進む横スクロールのレースゲームです。地面の硬さは「土」「砂」「粘土」の3種類に分かれており、それぞれ抵抗が違うため基本的には真ん中の「砂」を通るのが一番効率が良いです。ただ、誰かが掘ってくれた穴は抵抗がなくなるので、2位以降のプレイヤーはトップが掘った穴についていくという手段を取ることもできます。

 

――マシンに慣性が働くので、トッププレイヤーが堀った穴をそのまま進むのは意外と難しいですね。1位を独走するプレイヤーはその辺りも加味してコースを自分で作っていくというプレイングになるということですね。

 

 

奥谷:はい。道中に配置してある宝箱によってネットやミサイルなどのアイテムが入手可能でして、下位のプレイヤーにチャンスが多くなるような設計になっています。

伊藤:課金形態もユニークで、ルビーを購入して使用すると1ヶ月間広告を非表示にすることができるので、言ってみればサブスクリプションのような形という……。

奥谷: さらに言うとロングコースを選択できるようになります。マルチプレイの場合は8人のうち誰か1人が課金をしているだけで良いので、 高校生などでも気軽に遊びやすいかと思っていますね。

 

――なるほど……。課金形態だけでなくゲームデザインも非常に考えられていると思いますが、本作はいつ頃から構想があったのでしょうか?

奥谷:構想自体は15年前からありました。地中を掘ってミサイルを打ち合ったりするようなゲームというコンセプトで何か作りたいなと思っていて。当時は『Warcraft II』を良くプレイしていたので、8人対戦くらいのマルチプレイをやってみたいと。ただ、その当時はちょうどPlayStationが発売されたくらいでしたから、ネットワークゲームをコンシューマでやるのはまず無理という状況だったんです。それが最近になって、ようやくスマートフォン端末などでも気軽にネットワーク対戦ができるような土壌が整ってきまして……。

 

――企画職として働きながら、自身の中で温めていたアイデアだったということですね。実際に開発に着手したのはいつ頃だったのでしょうか。

 

 

奥谷:2年半前に、旧知の仲である株式会社アティックの社長(海老原信顕氏)に、食事の席でこの企画を見せたんです。その場ですぐ「是非作ってみては?」と打診を頂き、協力をしていただいてアロービットゲームスタジオを設立しました。こうした経緯のもと、まずは実績を作るために1作目となる『non non のんちゃん 乾杯バトル!!』を開発し、その後本作の開発に着手しました。実際の開発期間はトータルで2年ほどですね。

――本作においては、奥谷氏ご自身がディレクターと2Dアートを兼任されているという形でしょうか。

奥谷:私自身がマシンとキャラ、背景を担当しています。世界観が”地中をドリルで掘る”という男の子向けの内容なので、私個人の趣味もあってドリルや戦車をたくさん考案しました。ただ、ゲームとしては小さな子供や女の子にも遊んで欲しいので、メインマシンだけは女の子ウケを狙っています。妻がイラストレーターなのですが、その監修のもと作ったのが「モグマシン」です。

 

 

――可愛らしいキャッチーなデザインだと思います。ちなみに、ご自身の趣味全開なところで言えばどの辺りのマシンが好みですか?

奥谷:ツインドリルスターとローラーバトラーです!ただ、東京ゲームショウ2018でのアンケートではモグマシンがかわいいと人気でした。アンケート結果の中には、ネタマシンも入れて欲しいという案もあったので、2ヶ月に1回くらいはマシンを1個、ステージを1個など、自分たちの出来る範囲で作って行きたいと思っています。

 

 

 

たった3日でネットワーク対戦を実現した「モノビットエンジン」

 

――今回はネットワーク通信のミドルウェアとして「モノビットエンジン」インディーズプランを使用していますが、選定されたきっかけを教えて下さい。

奥谷:当初一緒に開発にあたっていたエンジニアが、モノビットエンジンか他社ミドルウェアかの2択で検討をしていたのですが、結果的にはインディーズプランのリリースを見て問い合わせをしたモノビットエンジンを採用することになりました。導入後は3日か4日でマルチプレイが出来るような状態になって、非常に驚いたのを良く覚えています。全部カスタムで書かねば……くらいの認識でいたところが、たったの数日だったので。また、エンジニアではない立場からすれば、インディーズとしての小さな展開から本格的に大きく展開する際に、技術的な面も含めた国内サポート体制が整っていることも安心できる点でした。

――そういう意味では、完全にエンジニア目線で見ている伊藤氏はモノビットエンジンについてどのようなファーストインプレッションを持たれましたか?

 

伊藤:私自身、GTMFなどのイベントでモノビットエンジンを講演やブースでずっと見かけていたので、一度は是非使ってみたいと思っていました。実際に触ってみた第一印象も全く抵抗がなく、分からない点も特にありませんでしたね。あとは中嶋謙互氏(現モノビットCTO)の「MMORPGが簡単に作れるなど、制作者の方々を助けられるような技術を生み出したい。」というコンセプトには個人的に強い共感を覚えていたので、そこもポイントでしたね。コミュニティエンジン時代(*)からいろいろ触って来ていますから。
*株式会社コミュニティエンジン。中嶋氏が設立した開発会社で、現在は解散。

――導入に際しての問題は特に感じていなかったということでしょうか。

伊藤:そうですね。導入だけで言えば、Webサイトに同時接続数100まで使用できるプログラムが無償で用意されているので、ダウンロードして組み込むことで簡単にテストすることが可能でした。もともとのテストサーバもありますし、あとはIDCFの安価なサーバプランがあったのでスモールスタートには最適解だと思っています。IDCFではサーバ監視システムのMackerel(マカレル)が無償で使えるため、CPUやメモリ負荷などを確認することもでき、クライアント制作をしながらサーバ側も考慮するという大変な作業が負荷少なくできたのが良いところだと思います。

――伊藤氏は他社ミドルウェアでの開発実績もあるとお伺いしましたが、感覚の違いなどはありましたか?

伊藤:どちらで実装しても結果は似たようなところに着地していたかも知れませんが、モノビットエンジンはオペレートがイージーでしたね。あとはモノビット自体がゲーム会社ですし、対応もフレンドリーなので肌感覚が合っていました。加えて言えば、『Monobit Engineユーザー助け合い所』というFacebookグループがあるのですが、皆さんのレスポンスが早くて丁寧だったので、困っていた時に助かりました。

 

インディーズで開発できることは「幸せなこと」ーアロービットゲームスタジオの目指す未来

――最後に、アロービットゲームスタジオの今後の展望などをお聞かせいただければと思います。

奥谷:『モグモグガンガン』は対戦ゲームとしてサービス後もブラッシュアップを続けていく予定で、学生さんが休憩中にパッとやれるような対戦レースゲームにしたいと思っています。家族でデバックなども行っていますが、上手くなればなるほど駆け引きの熱いゲームになっておりますので、学生さんに限らず、是非多くの方に遊んでいただきたいです。

――長くコンシューマを経験されたお二人がこうしてスモールチームとしてインディーゲームを開発していることは、多くのクリエイターの刺激になるかと思います。この先もこうした活動を続けて行かれるのでしょうか。

 

 

伊藤:昔は企画職もやっていたので、何かしら自分の作りたいタイトルを自分自身で作ってみたいとは思っていますね。何か……というのはまだ決まっていないですが、いつかはやってみるつもりです。その際には、またモノビットエンジンを使わせていただくつもりです。日本のインディー開発者でモノビットエンジンをガンガンに叩いて、さらに良いエンジンに鍛え上げたいですね(笑)。

 

 

奥谷:私などの立場だと、おそらく大きな企業の中に入ってしまうとマネジメントなどの管理業務にアサインされてしまうと思うんです。だから今は自分で、自分の作りたいタイトルを開発できているこの状況をとても幸せなことだと感じています。もちろん次のタイトルの構想もありますので、次に参加するイベントではそのプロトタイプをお見せできたらと思っていますね。